愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
この人は、なにを言っているんだろう。
『心の中では味方だった』?
そんなの意味がないのに。
『まだあなたのことが好き』?
私の気持ちとは一向に向き合わないのに。
謝りたい、なんて言いながら本当はそうじゃないんだ。
私が受け入れるまでずっと、自分の気持ちを押し付けていたいだけ。
身勝手なその言い分に段々と腹が立ってきて、掴まれたままの右腕の拳を握る。
そしてそれを思い切り振り払おうとした、瞬間。
清貴さんが彼の腕を掴み、強引に引き離した。
「黙って聞いていれば、勝手だな」
口を開いた清貴さんに、私も村瀬先生も驚きをみせる。
「あなたはなんのために謝ってるんだ?春生に許されるためか、自分の気持ちを軽くするためか、それとも……ただ春生に受け入れてもらうためか?」
「なっ……」
「自分は春生の気持ちと一切向き合っていないのに、自分の気持ちは受け入れてほしいなんて、随分傲慢だな」
いつもと変わらぬ無愛想な表情。
けれどその目に怒りが含まれているのが感じ取れる。
「あなたは、彼女がどれだけ傷つき苦しんだかわかるか?笑われ否定され夢を奪われ……どんな気持ちでここまできたかわかるか?」
段々と、けれど力強い口調で言う彼に、村瀬先生は押し黙った。
清貴、さん……。
普段はクールな彼が、私のことで自分のことのように怒ってくれる。
なんて、優しい人なんだろう。
一方的に繰り返される『好き』の言葉よりも、自分を理解してくれている彼の言葉の方がよほど愛を感じられる。
私はひとつ息を吸い込んで、声を発した。