愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「……どんなに謝られても、好意を伝えられても、私はまだあなたを許すことができません。
ただあの時みんなに事実を言ってくれただけでよかったのにって、思ってしまう」
例えば彼が、あの時『悪かったのは自分だった』と周りに釈明してくれていたら、きっと答えは違っていた。
私の居場所はまだあそこにあったかもしれない。
たったそれだけで、よかった。
でももう、どんなに願っても時間は戻らないから。
「でもいつか『あの時があったから今がある』って、そう笑い話にできたらいいって思ってます」
あのことがあったから、私は仕事を辞めて結婚に踏み切った。
逃げた先であたたかな存在と出会えた。
つらかったことも今のための必然だった、といつか笑えたら、その時初めて彼を許せる気がした。
「ごめんなさい、この先もあなたの気持ちには応えられません。私には……大切な人がいます」
目を見てはっきりと言い切った。
それに気圧されるように、村瀬先生は顔を歪めて俯いた。
そして少し黙ってから「……すみませんでした」と小さく呟き、席を立った。
彼が店を出てふたりきりになり、どっと安堵がこみ上げる。
終わっ、た……。
ほっとして、少しだけ心が軽くなった気がする。