愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
垣根に囲まれた、二階建ての一軒家。
ここを出てからまだそんなに経っていないはずなのに、すごく懐かしく感じてしまう。
それくらい、清貴さんと住むあの家に馴染んできたってことなのかな。
玄関から家に上がると、当然そこには誰もおらずしんと静けさだけが漂っていた。
廊下を通り、リビングを抜けて奥の和室へと入ると、壁際には小さな仏壇。
いくつかの写真が飾られる中には、若い夫婦の写真……そう、私の両親の写真も並べられている。
「……ただいま。お父さん、お母さん」
ふたりに声をかけ、お線香をあげると手を合わせた。
両親が亡くなったのは、私が5歳の時だった。
あまりに突然すぎて、事故があった日の前後の記憶はほとんどない。
冬子さんが言うには『あまりのショックに脳が当時のことを忘れようとしているのだと思う』とのことだった。
幼なかったこともあってただでさえ曖昧な記憶の中、ふたりのことも年々おぼろげになっていく。
けど、優しかったことだけはいつまでもしっかりと覚えている。
お父さん、お母さん。
私、お嫁に行ったんだよ。
いろいろあったけど、今は幸せに過ごしてる。
だから、安心していてね。
心の中で呟くと、顔を上げその場を立つ。