愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~



「そういえば清貴さん、こんな感じのストラップを持ってたんです。意外ですよね」

「へぇ……あ、それってもしかして初恋の思い出ってやつ?」

「え?」



初恋の思い出、って……?

意味を問うように首をかしげる私に、周さんは話してくれる。



「子供の頃、出先で知り合った初恋の女の子からもらったんだって。その子のことが未だに忘れられなくて今でも大切にしてる、って前に酔った勢いで聞いよ」

「そう、だったんですか……」



じゃああれは、清貴さんにとって大切な思い出だったんだ。

だから私がストラップに触れたあの時、あんなに拒んだのかな。

今でも大切にしているくらい、今でも清貴さんの胸にはその子がいるのかな。



その子とは再会できてる?今はどう思ってる?

わからない。だから不安だ。



考えれば考えるほど、胸が締め付けられ痛んだ。





宝井神社を出て、ひとり家までの道のりを歩く。

行くときはあんなに軽かった足取りが今はひどく重い。



どんな顔をして清貴さんに会えばいいか、わからなくなっちゃった。

でも初恋の人の話なんて聞く勇気ないし……。



旅館の敷地を抜けて自宅へ向かおうとした、その時。

ちょうど敷地内を歩いていた清貴さんと出くわした。



「春生。どうした、散歩か?」

「この前のお土産を周さんのところに持って行ったところで」



正直に話してからはっとすると、清貴さんは案の定嫌そうに顔を歪める。


  
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