愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~



「あいつのところにひとりで行くなって言っただろ。お土産も、今夜俺が持っていくって今朝話したはずだ」

「あっ、いえこれは、その!」



今朝の話はすっかり聞いていなかった。いかに自分が浮かれてぼんやりしていたのかがわかる。

けれど私の様子からなにもなかったことを察したのだろう。

清貴さんは呆れて溜息をついてから、ふと思い出したように言う。



「そうだ、ちょうどよかった。あとで一度家に戻ろうかと思ってた」

「どうかしましたか?」

「仕事のスケジュール変更が入って、明日急遽支店巡回に向かうことになった。一泊で行くから準備を済ませておいてくれ」



明日、しかも泊まりでなんて大変だ。

じゃあ、着替えとか諸々必要だよね。



「わかりました。シャツとか用意しておきますね」

「いや、俺じゃなくて春生の話だ」

「え?」



私?出張なのにどうして?

この前は行き先が杉田屋だったから私も同行させてくれたんだろうけど……今回は違うはずだ。

一緒に行ってもそれこそ邪魔になってしまうだけじゃないだろうか。

首を傾げている私に、清貴さんはそっと頭を撫でる。



「支店の者にも妻として紹介しておきたいからな。それに、仕事とはいえ行くならふたりで行った方が楽しいだろ」



清貴さんにそう言ってもらえることが嬉しくて、私はふたつ返事で頷く。



ついさっきまで心の中はもやもやとした気持ちでいっぱいだったのに。それも一瞬で吹き飛んでしまった。

今その目は私だけを見てくれているんじゃないかって、期待する。



  
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