愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「キーヨっ」
そう呼ぶとともに、突然ひとりの女性が清貴さんの腕にうしろから抱きついた。
黒いショートカットヘアに、健康的に焼けた肌。
タイトなノースリーブワンピースがよく似合う華奢なその女性に、清貴さんは眉ひとつ動かさない。
「茉莉乃相変わらず元気そうだな」
「うん、超元気!経営も名護グループ様のおかげで絶好調だし!」
腕に抱きついたままピースをして笑う彼女に、清貴さんはそっと腕をほどいた。
そのタイミングでこちらを見た彼女と目が合う。
「キヨ、こちらは?」
「ちょうどあとで紹介しようと思ってた。妻の春生だ」
清貴さんが発する『妻』の響きがなんだかくすぐったくてまたにやけそうになる。
それをこらえてお辞儀をしようとした、けれど一瞬目の前の彼女の顔は真顔になった。
ん?どうしたんだろ……。
その反応を不思議に思うけれど、彼女はすぐ再び笑顔を見せた。
「あー……あぁ、噂の杉田屋さんのところの娘さん?これまたかわいい子捕まえたねぇ」
あれ、気のせいだったのかな。考え過ぎかも、と思い私は改めてお辞儀をする。
「はじめまして、名護春生と申します」
「はじめまして。私は名雪茉莉乃、このホテルのひとり娘で副支配人です」
にこりと笑って彼女が名刺を差し出す。
それを受け取り見ると、『名護グループリゾート NAYUKI伊豆高原 副支配人』の文字が並んでいた。
副支配人……若いのにすごい。
でもたしかに、明るくはつらつとしていて仕事もできそうな印象だ。
感心していると、茉莉乃さんは「それにしても」と清貴さんを見てにやりと笑う。