愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
あのキスだってただの気まぐれだったのかもしれない。
なのに、浮かれていた自分が恥ずかしい。
ちょっと考えればわかること。
でも彼との日々に疑いなんて持たなかった。
だって、信じたかったから。
政略結婚だろうと、始まりがどんな形だろうと、これから本物の夫婦になっていけるって。なっていきたいって。
その願いは、杉田屋のためでも冬子さんたちのためでもない。
私自身のため。
私自身が清貴さんを好きだから、彼と夫婦になりたい。
私を見てほしい、私を求めてほしい。
『なにをもってキヨの妻と言えるの?』
妻としての、証がほしい。
それから数時間後。
仕事を終えた清貴さんと合流し、ふたりで夕食を済ませ部屋へと向かった。
用意された部屋は、ふたり用には広すぎるほどのスイートルーム。
大きな窓からは先ほど歩いた庭園と、その先にある青い海が見える。
オレンジ色の照明と、ベッドにつけられた白いレースの天蓋がムードのある雰囲気を演出している。
そんな中、入浴を終えた清貴さんは私のいるリビングスペースへと戻ってきた。
「春生、待たせたな。風呂あいたぞ」
「はい」
ホテル内には大浴場もあるけれど、部屋の浴室からも外が見えて素敵だというので今夜はこちらに入ることにした。
大浴場は明日の朝のお楽しみだな。
そう思いながらなにげなく清貴さんを見ると、彼は白いバスローブに身を包んでいる。
はだけたバスローブからのぞく鎖骨と、熱を帯びた色白の肌。さらにふわりと漂うボディソープの香り……
い、色っぽくて目のやり場に困る……!
「私もお風呂入ってきちゃいます!」
その場から逃げるように、私は浴室へと駆け込んだ。