愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
服を脱ぎ、足を踏み入れた浴室は湯気でくもり熱気に包まれている。
縦長い窓から見えるのはホテルの裏側の森で、ライトアップされた木々が昼間とはまた違った顔を見せて綺麗だ。
湯船に浸かり、ほっとひと息つく。
けれど思い出されるのはやはり昼間の茉莉乃さんの言葉。
あれ以来ずっと考えてしまって、清貴さんと一緒にいても純粋に楽しめない。
せっかくのおいしいごはんすらも、全く味わえなかった。
でも、どうしたらいい?
清貴さんの気持ちを知りたい、けど『私のこと好きですか?』なんて聞けるわけがない。
……そんなことを聞いてもし『好きじゃない』、『本当は結婚したい人がいた』なんて言われたら立ち直れない。
だけど言葉がほしい。揺らがない証がほしい。
私自身を見てるって、私のことを好いてくれているって、そう示す証明がほしい。
そしたらこの不安も消えるはず。
……言葉を求めるのがこわいなら。行為で求めるしかない。
それも勇気がいるし、こわい。
だけど応えてもらえれば、それだけで安心できるから。
決意を固めお風呂からあがった私は、バスタオルで体を拭く。
そして用意しておいた着替えには手をかけず……バスタオル一枚を巻いて脱衣所のドアを開けた。
乾ききっていない髪から垂れる水滴が、点々と床を濡らしていく。
それすら気に留めずリビングルームを抜けベッドルームのほうへ行くと、ベッドのふちに腰かけタブレットを手にする清貴さんがいた。
「……清貴さん」
「あぁ、出たか春、生……」
彼は顔を上げこちらを見ると、驚き言葉を詰まらせた。