愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「え……どうして、ダメなんて」
「悪い、できない。……風邪ひくといけないから、服着てこい」
清貴さんはそう言って体を起こし、背中を向けた。
「なんで……」
ダメ?できない?どうして……。
やっぱり、その心には彼女がいるから?
私は本物の妻にはなれない?
いくらそばにいても、笑っても、その心の中で私の存在は恋にはならない?
……どうして。
ポロ、と涙がこぼれ出す。
途端に自分がみじめに思えて、私は脱衣所へと戻る。
そしてドアをバタンと閉じると、その場に座り込んで泣いた。
彼が言葉にしなくても、伝わってきてしまった。
私では、ダメだってこと。
どんなに優しい言葉をくれても、抱きしめてもキスをしても、それ以上はない。
だって私と彼は、心でつながったわけじゃないから。
互いのメリットのために、彼は相手が私じゃなくたって結婚した。
私も、きっと同じ。
だけど、いつしか清貴さん自身に惹かれていた私はもうそれだけじゃ割り切れない。
この切なさも焦りも涙も、清貴さんが好きだから。
とどまることを知らずに溢れ出る。
……本物になんて、なれやしないのに。
全身の熱がさめ、肌が冷えていく。
ぬくもりが失われていくのを感じた。