愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
10.一輪咲いても花は花
『また会おうね、約束だよ』
夕空の下、小さな町を見下ろして誓った約束は、今もまだこの胸に残っている。
屈託のない笑みを見せる彼女に、思ったんだ。
いつかまた会えるときには、胸を張れる自分でいたい。
彼女の手を自ら引けるような、そんな存在になりたいと。
「……長、副社長!」
呼ばれた名前に、ふと我に返る。
見慣れた支配人室の中、目の前には困った顔の社員がこちらを見ていた。
「……悪い、考え事してた」
「大丈夫ですか?こちら、本社からの通達の確認お願いします」
「あぁ」
社員は書類を手渡すと部屋をあとにする。
室内に自分ひとりになったところで、「はぁ」と自然に溜息が出た。
またぼんやりしてしまっていた。手元の業務もまったく片付いていない。
仕事中にこれはまずいな。
そう分かっているのに、一向に仕事に集中できない。
というのも頭の中は春生のことでいっぱいで、気付くと彼女のことばかりを考えてしまうから。