愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「だって……納得いかない」
「納得?」
「私のほうがずっと前からキヨのこと見てた!なのになんで、あんな子がキヨと結婚できるの!?」
泣きそうな顔で声を荒らげる、その表情はいつもの笑顔とはまったく違う。
幼い頃からの付き合いだというのに、初めて見る顔だ。
「キヨだって親の言いなりになる必要なんてないんだよ!?大人なんだし、自分の意思で相手をみつけたって……」
その言葉は俺のためを思って言っているのか、だから自分にもチャンスをという意味で言っているのか。
わからないけれど……ひとつ大きな誤解をしているのは明らかだ。
「俺は、自分の意思で春生を選んで結婚した。春生といたくて、一緒にいるんだ」
「え……?」
それは、春生にまだ言っていないことのふたつ目。
父親から結婚を勧められたのは事実だ。
けど、だからといって誰でもよかったわけじゃない。
俺は自ら、春生を選んだんだ。
「詳しいことはまだ春生にも言えていないから、茉莉乃にも言わない。けど、はっきり言っておく。俺は春生といられて幸せだ」
驚き目を丸くする茉莉乃に、俺はその肩からそっと手を離す。
「例えば、美しい景色を見たり、美味しいものを食べたりしたとき茉莉乃ならどう思う?」
「え?えっと……写真撮ってSNSにあげたり、友達に話したりするかな」
「俺は、まず春生に見せたいと思うし、春生と一緒に感じたいと思う。彼女ならどんな表情をするだろう、なんて言うだろうと考える」
景色も、美味しいものも、全て彼女と共有したい。
「春生が笑ってくれるかもしれない、そう思うだけで幸せなんだ」
あの笑顔を思うだけで自然と笑みがこぼれてしまうくらい、心があたたかくなる。
この気持ちは、春生にだからこそ湧き上がるもの。
「だから、ごめん。茉莉乃の気持ちには応えられない」
目を見てはっきりと言い切る俺に、茉莉乃は俯く。
そしてそれ以上の言葉はなく、駆け足で部屋を出て行った。