愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「おかえりなさい」
笑顔で声をかけると、脱いだ靴を揃えながら清貴さんはこちらへ目を向ける。
「……ただいま」
ボソッとした言い方だけれど、答えてくれる。
それが嬉しくて顔を緩めた私に、彼は軽く頭をぽんと撫でた。
清貴さん、よく頭撫でてくれるなぁ。
歳も離れているし子供扱いされているのかも。そう思いながらも、その優しい手がうれしい。
「今日は少し遅かったですね。忙しかったですか?」
「来客の対応をしていて仕事が押したんだ。遅くなって悪かったな」
「いえ、今日もお疲れさまです!」
リビングに入りながらそんななにげない会話をしていると、ふと違和感を覚えた。
あれ……清貴さん、なんとなく声が変な気がする。
ちょっと掠れてる?風邪かな。
「声がちょっと変ですけど、風邪ひいちゃいました?具合悪くないですか?」
「そうか?いつもと変わらないと思うけど」
そう言いながら、清貴さんはこちらに顔を近づけて私の額に額を合わせた。
「ほら。熱ないだろ」
不意打ちで顔が近づいて、ドキッと心臓が跳ねる。
い、いきなり近づくなんて!
思わぬ彼の行動に驚くより先に、恥ずかしさから頬がぼっと熱くなった。
「むしろ春生のほうが熱い気がするけど大丈夫か?」
「は、はい大丈夫です……!」
たしかに、私のほうが熱いかも……!
私は慌てて離れると、熱い頬を手であおいで冷ましながらキッチンへ向かった。