愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「清貴さん、体調はどうですか」
小さな声でたずねながら戸を開けると、ベッドの上の彼はまだすやすやと眠っている。
熱はもうあがりきったようだ。
汗もかいたみたいだし、この調子なら明日には下がるかもしれない。よかった。
安堵しながら、その額のぬるくなった冷却シートをはがして、新しいものと交換した。
長い睫毛を伏せた、綺麗な寝顔。
こんなときでも綺麗な顔してる……。
つい目を奪われてしまいながら、改めてあたりを見回す。
そういえば私、清貴さんの寝室って初めて入ったかも。
掃除は自分ですると言うし、プライベートな空間にはまだ立ち入ってはいけない気がして入れずにいた。
室内は彼が今眠るベッドと、度々仕事をしているのだろうデスク。
窓際に背の高い観葉植物が置かれただけのシンプルな部屋だ。
デスクの上にはノートパソコンや書類、ファイルが積まれている。
いつもだったらきっと綺麗に整頓しているのだろうけれど今朝の彼にそこまでの余裕がなかったことがうかがえた。
デスクの端には黒縁のメガネがある……かけてるの見たことないけど、時々かけるのかな。
そのメガネを彼がかけた姿を想像するとよく似合っていて、かっこいい人はなにを身につけてもかっこいいのだと実感した。
そのメガネの横に置かれたピンク色のストラップが目に入る。
これ、この前の……。
以前拾って清貴さんに怒鳴られたことがあったっけ。
あの時はただ寝ぼけて驚いただけって言っていたけど。
あの時のことを思い出しながら、恐る恐るストラップを手に取る。