愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「風邪は万病の元って言いますし、しっかり治さないと。清貴さんが死んじゃったら大変です」
私は結構本気で言ったのだけれど、その言葉に彼はふっと笑う。
「……大袈裟だな」
「大袈裟じゃないです!本当に風邪はバカにできないんですから!」
「はいはい、わかった」
呆れたように笑って、私の頭をポンと撫でる。その手は熱く、彼の体温の高さを感じた。
「そうだ、なにか欲しいものとかありますか?アイスとかフルーツとか、風邪ひいたときはコレっていうもの」
「いや、特には」
「そうなんですか。ちなみに私は、風邪ひいたときに冬子さんが作ってくれる生姜が入った卵粥が大好きで!たっぷり卵が入ってて絶品なんです」
思い出すのは、熱を出して苦しいときに、そばにいてくれた冬子さんの姿。
忙しいはずなのに、まめに様子を見にきてくれて、心細さを紛らわせてくれた。
食欲がないと言った私が食べやすいようにと、沢山の卵を使ったお粥を作ってくれた。
いつしかそれは私にとって、風邪をひいた時の定番メニューになっており、自分の中で一番色濃く残る母の味だ。
その話に清貴さんは少し考えるけれど、やはり首を横に振る。
「俺にはないな。……熱を出して寝込んでも家にひとりになって心細いだけだったから、無理してでも学校に行きたかった」
そういえば、ご両親が忙しくてあまり家にいなかったって言っていたっけ……。
苦しくても寂しくても、広い家にひとり。
それはどんなに孤独だろう。
幼い彼の寂しさや、無理して学校へ行こうとするつらさを想像すると、胸がぎゅっと掴まれた。
すると自然と手は動いて、私は清貴さんの頭をよしよしと撫でた。