愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「そうやってひとりで、頑張っていたんですね」
今朝の清貴さんの意地っ張りの理由が、わかった気がする。
甘えることなく、ずっと平気なふりをしていたのだろう。
寂しさが身にしみないように、孤独に負けてしまわぬように。
いつも、ひとりで。
「でも大丈夫、今は私がそばにいます。だから強がらないで、無理をしないでいいんです」
なんの力にもなれないかもしれない。
だけど、寄り添うことはできるから。
あなたが寂しいと思うとき、弱くなりたいとき、隣にいる。
笑って言った私に、清貴さんは少し驚いた顔を見せてからつられたように微笑む。
「……嫌と言ってもか?」
「嫌と言ってもです!」
かわいくないことを言いながらも、その柔らかな表情からどこか嬉しそうな様子は伝わってくる。
すると清貴さんは、頭を撫でていた私の手を掴みおろさせる。
そして自然と自分の口もとまで運ぶと、そっと手のひらにキスをした。
まるで私の手を愛でるような口づけ。
しっかりと手のひらに触れる唇の感触を感じて、この胸はトクンと揺れた。
「……俺も食べてみたいな」
私の手を掴んだまま、清貴さんがぼそりと小声でつぶやく。
「え?」
「卵粥、絶品なんだろ?」
それは、冬子さんの卵粥のこと……。
自分の好きな味を知ろうとしてくれる、そんな彼の言葉に私は強く頷く。
「はいっ、すぐ作りますね!」
そして部屋をあとにしながらひとり廊下に出ると、先ほど彼が触れた手をぎゅっと握った。
……なんだか、熱い。
唇が離れたあとも、手のひらに触れた感触が消えない。
段々と熱を増して、刻まれていく。