愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
芦ノ湖を横目に、神社の入り口を目指して坂道をのぼる。
私の一歩前を行く清貴さんは、黒のテーラードジャケットに白い丸首シャツ、ライトグレーのテーパードパンツという私服姿。
普段スーツか寝間着姿ばかり見ているせいか、なんだか新鮮だ。
いつもは上げている髪をおろしていることもあってか、少し若く見える気がする。
それにしても私服姿もキマってるなぁ……。
背筋がピンと伸びており、足もすらりとして長い。人混みの中でも目を惹くようなオーラを放っている。
現に、周囲の人は歩く彼に自然と視線を向けている。
「わぁ」と聞こえるざわめきも清貴さんは慣れているのか聞こえていないのか、気に留めることなくスタスタと歩いた。
そうだよね。毎日見ている私でもやっぱりかっこいいと思うのだから、周囲の人がざわめくのも当然だ。
「わ、あの人かっこいい。芸能人かなにかかな」
「背も高い。顔も小さいね」
それは後ろを歩く女性たちも同じようで、ひそひそとした声で話している。
「あーあ、でも彼女連れだ。残念」
「彼女?それにしては釣り合ってないし、妹でしょ」
ところが、そのストレートな言葉がグサリと刺さった。
そうだよね……ましてや妻とは思わないだろう。
見た目も中身も平凡な私では不釣り合いなのはわかってるけどさ。
周りの声に隣を歩くのに気が引けてしまい、私は清貴さんから二、三歩あけて後ろを歩いた。
すると彼はふとこちらへ目をとめ、歩く足を止める。