愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「失礼します、名護さま」
ところがその瞬間、船内から姿を見せた係員の男性に声をかけられた。
我に返った私は慌てて清貴さんの手から顔を離す。
「二階のレストランでお食事のご用意ができております」
「あぁ、ありがとう。春生、あまり外にいて体を冷やしても大変だし食事にしよう」
「は、はい」
係員の案内で船内へ戻り、二階のレストランへ向かう。
クラシックのBGMが流れる中、白いクロスが敷かれた窓際の席に着いた。
そこは窓に向かってローテーブルとソファが用意されたペアシートだ。
目の前の窓は大きくひらいており、目の前の湖を見ながら食事をできるロマンチックな席だった。
清貴さんと横に並んで座ると、そのタイミングで近づいてきたウエイターが、「いらっしゃいませ」と一礼する。
「お食事はコースでご用意しております。ペアリングのお飲物はどうされますか?」
「ペアリング、って?」
「一皿ごとに合わせたドリンクをソムリエが選んでくれるんだ。アルコールとノンアルコールで選べるが、どっちがいい?」
「じゃあ、ノンアルコールで」
私の回答に、清貴さんがノンアルコールをふたつ注文する。
そして少しすると、ウエイターがお皿とワイングラスをふたつトレーに乗せて戻ってきた。
「こちら、トマトのブルスケッタです。お飲物は洋梨を合わせたジンジャーエールとなっております」
私たちの前に置かれたのは、真っ白なお皿に上品に飾られたブルスケッタ。
薄めの小さなパンにトマトをメインに盛り付けられている。
その隣に置かれたシャンパングラスに注がれたゴールドカラーの炭酸の上には、洋梨のソルベが浮いている。
互いにグラスを手に取り、コン、と軽く合わせて乾杯をした。
ひと口飲むと、辛口のジンジャーエールに洋梨の甘さが舌の上でほどよく混ざり合うのを感じた。