愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「朝も夜も笑顔で迎えてくれて、優しさをくれる。……そんなふうに俺自身と向き合ってくれた人は、初めてだったから」
その言葉は、お金があっても、立派な家があっても、『いってらっしゃい』の言葉すらなかった……そんな彼の孤独を想像させた。
だけどこちらを見つめるその目は、今は不思議と寂しさを感じさせず、むしろ穏やかさに包まれている。
「でもこれまで恋人とかはいましたよね?その人とはそういうやりとりなかったんですか?」
「あぁ。何人かはいたけど、皆自ら寄ってきては離れて行った。つまらない、冷たい、って幻滅してな」
相手に向けてか、自分に向けてか、呆れたように乾いた笑いをこぼす。
幻滅?清貴さんに?
……どうして。
「清貴さん、こんなに優しい人なのに」
言葉とともに、自然とその手を握り返す。
その私の言動に、彼は驚いた表情を見せた。
「最初は確かにそっけなかったけど、でもそれも不本意な結婚をした私に必要以上に妻として負担をかけないためだったじゃないですか」
私に負担をかけまいと、必要以上の接触を避けた。
なのに、飛び出した私を追いかけてくれた。話を聞いて受け入れてくれた。
ごはんも残さず食べてくれる。『いってきます』も言ってくれる。今日もこうして、一緒の時間を過ごしてくれた。
「無愛想でわかりづらいけど、でも清貴さんが優しいこと知ってます。だから私も清貴さんのことをもっと知りたいし、笑ってくれると嬉しいんです」
彼への想いを言葉にすると、自然と笑みがこぼれだす。
すると清貴さんは、あいている右手で口もとを覆いながら顔を反対側へ背けた。