愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「あの……これはいったい?」
「びっくりさせてごめんね。名護の慌てる姿が見てみたくて、つい。さすがに僕も友達の奥さんに手は出さないよ」
つまり……さっきのは清貴さんをからかうための冗談だったということ。
あ、悪趣味すぎる……!
「ったく、帰るぞ春生!」
「ばいばーい、また来てね」
「来るか!!」
清貴さんに肩を抱かれ、連れられるがままその場をあとにする。
去り際に周さんが一瞬優しい目を見せたことが気になりつつも、私たちは家へ向かう道を歩いた。
「清貴さん、ごめんなさい。仕事中だったのに」
「本当だ。だから言っただろ、あいつに近づくなと」
うっ……。
確かにその通りだったかもしれない、そう思うとなにも言えない。
「周はいつもああで、人の弱みを見つけるとそこを突いて、動揺する俺を見て楽しんむのが生きがいなんだ」
「は、はぁ」
悪趣味なのか、それほどまでに清貴さんが好きという愛情の裏返しなのか。
だから昨日、清貴さんはあんなに私が彼に接触することを嫌がっていたんだ。
でもつまり、彼にとって私はなにかあれば動揺してしまうような弱みなのかな。
なんてちょっと自惚れてしまう。
「……でも、それだけじゃない気もします」
「え?」
「周さん、私のことも試していた気がするんです。『名護より優しくするから俺にしない?』って。でもそれを私が断ったら、嬉しそうに笑ってた」
私の答えに笑って、駆けつけてきた清貴さんにも笑って……先ほどの周さんの様子から私が感じたのは、私達の絆を試していたのかもしれない、ということ。
本当は周さんも、長い付き合いの清貴さんの結婚相手がどんな相手なのか気にしていたのかもしれない。
私の言葉に、清貴さんは不服そうな、けど照れくさそうな複雑な表情を見せた。
……『親友なんかじゃない』って昨日は言っていたけれど、本当は彼も周さんのいいところを知っているのかもしれない。
でもそれを素直に認めたくない、といったところだろうか。
意地を張った彼の顔がちょっとかわいらしくてつい笑みがこぼれる。