愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~



「あの時はなにも力になってあげられなくてごめんね」

「……ううん、唯ちゃんが謝る必要なんてないよ。それに、もう大丈夫だから」



『大丈夫』。

自分にも言い聞かせるように笑って言うと、そんな私の心を察するように唯ちゃんは悲しげに微笑んだ。

そしてひと息おいてから、真剣な顔で口を開く。



「……そんな春生に言おうか迷ったんだけど、知っておいたほうがいいと思うから言っておくね」



知っておいたほうがいいようなこと?

なんだろう、と続きを待つ私に唯ちゃんは話を続ける。



「聞いた話なんだけど、村瀬が春生のこと探し回ってるみたいだよ」

「え……?」



『村瀬』。唯ちゃんが声に出したその名前に心臓がドクンと嫌な音を立てる。



「うちの学校に村瀬と同期の先生がいるんだけどさ、その人に連絡があったんだって。

『そこの学校に杉田先生の友達いたよね、彼女経由で杉田先生の居場所わからないかな』って」



唯ちゃんのその話に、あの人がまだ自分に執着しているのだと知りゾッと鳥肌が立った。



「その先生も咄嗟に『知らない』って言ってくれたみたいなんだけど……でもどこから聞きつけてそっちに行くかわからないし、気をつけて」

「……うん、ありがとう。唯ちゃんにもその先生にも迷惑かけてごめんね」

「迷惑なんかじゃないって!」



申し訳ない気持ちでいっぱいになる私に、唯ちゃんは笑って肩を叩いてくれる。その笑顔に安心した。


  
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