愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
それから私たちはランチを終えてもまだ話が尽きることなく、お店を変えてまたお茶をしながら喋り尽くした。
そして気づけばすっかり日も暮れ、時刻は19時近くになっていた。
「すっかり話し込んじゃった。帰り大丈夫?」
「うん。今日は清貴さんもこっちにある本社に来てて、一緒に帰る予定だから」
「いいねぇ、ラブラブで。ドライブデート楽しんで〜」
ひやかす唯ちゃんに笑うと、また近々会うことを約束して私たちは東京駅で別れた。
楽しかったなぁ。唯ちゃんと久しぶりにいろいろと話せてよかった。
……楽しかった、はずなのに。
『村瀬が春生のこと探し回ってるみたいだよ』
あの名前を思い出すだけで胸がざわつく。
あの時のつらさが込み上げて、呼吸が苦しくてなってくる。
大丈夫、大丈夫……自分に言い聞かせながら、振出す手をぐっと握った。その時だった。
バッグの中のスマートフォンがヴー、と音を立てて振動する。
電話……?
取り出したスマートフォンの画面には『着信:清貴さん』の文字が表示されており、私は通話ボタンをタップして電話に出た。
「はい、もしもし」
『春生、お疲れ。今どこだ?』
「あ、今ちょうど唯ちゃんと別れて、東京駅の……」
言いながら辺りを見回すと、少し離れたロータリーに止めた車の前に立つ清貴さんの姿を見つけた。
彼と目が合い、通話を切ると小走りで近づく。