愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「少し寄り道していくか」
「えっ、いいんですか?」
「いい、というか俺が寄りたいんだ」
清貴さんが寄りたい場所……?
予想もつかず、私は彼に続いてシートベルトを外して車を降りる。
そして地上へと出ると、目の前にはライトに照らされ光る東京タワーがあった。
「わぁ、綺麗」
こんなに近くで東京タワーを見るのは初めてだ。
思っていた以上に大きなその建物に、私は口を開けながら見上げた。
「せっかくだし、夜景でも見ていこうと思って」
「はいっ、嬉しいです!」
ふたりで建物内へ入り、上階の展望室へ行く。
大きなガラスの向こうには一面東京の夜景が広がっていた。
「自然に囲まれるのもいいけど、たまにはこうして街の灯りも見たくなる」
「確かに……すっかり自然に目が慣れちゃったせいか、新鮮です」
まだ煌々と明かりの灯る夜のビル街。
それをすり抜けるように走っていく車たちはまるで流れ星のようだ。
少し前までは自分もこの景色の一部だったのに。
懐かしく思うあたり、もう自分はこの街の人間ではないのだと感じた。
ふと景色から周囲へ視線を移すと、自分たちの周りはカップルばかりなことに気づいた。
当たり前か……デートの定番スポットだもんね。
そんなことを思っていると、隣のカップルが突然抱きしめ合いキスを始めた。
こ、こんな人前で!?
カップルにとってはここはもうふたりだけの世界なのだろう。
恥ずかしげもなくイチャイチャするふたりに、見ているこちらが恥ずかしくなってしまう。
まじまじと見ていると、清貴さんの手が背後から私の目元を覆い隠す。
「こら。あんまり見るんじゃない」
「すみません……!」
私の視線の先に清貴さんも気づいたのだろう。
それ以上周りを見ないようにと、清貴さんは私を後ろからハグして景色をふたりで見る。