愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
清貴さんの体が背中にあたるのを感じていると、スーツの下に隠れた、たくましい腕がこの体をそっと包んだ。
意識するとドキドキと鼓動がうるさくなる。
こんなにも近いと心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
今この瞬間、この胸の中も頭の中も、清貴さんでいっぱいになる。
……なのに、ふいに不穏な影がよぎる。
『……杉田先生』
先ほどより色濃く、嫌な記憶がよみがえる。
……こわい。
微かに震える手で、すがるように清貴さんの手を握った。
「春生?どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです。ただ……触れたいなって、思って」
その手で、この不安も恐れも包んでほしい。
だけど……全て話して幻滅されたくないから。
喉元まで出かけた言葉を、なにも言えずに飲み込んだ。
今はただ、このままで。
妻として、そばにいさせてほしい。