愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
7.比翼連理
清貴さんと夫婦として過ごす日々は、穏やかで楽しい。
だからつい、数ヶ月前までの自分を忘れてしまいそうになる。
目まぐるしい街で、生徒を目の前に教壇に立つ自分。
憧れの教師となり、やりがいやプレッシャーと闘っていた日々。
毎日があっという間で、でも愛しかった。
……だけど。
『杉田先生』
腕を掴む手と、荒い息遣いがまだ記憶から消せない。
『杉田先生が誘ったらしいよ』
生徒たちの間を駆け抜ける勝手な噂。
『杉田先生、あなたに原因があるんじゃないですか』
上司からの軽蔑した目。
『……ごめんなさい、仕事辞めることにした』
『そう……仕方ないわよ』
逃げ出した情けない自分と、冬子さんの落胆した声。
全て忘れられたら、ラクなのに。
今もまだ、不意によみがえるんだ。