愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「清貴さん、ちょっとだけいいですか」
なんだ、と不思議そうな顔をする清貴さんに、私は立ち上がり近付くと、その体に正面からぎゅっと抱きついた。
「は、春生?」
「ちょっとだけですから」
その硬い胸板に顔をくっつけて抱きつくと、自分と同じ柔軟剤の香りがした。
チラッと見上げると、清貴さんは突然のことにどうしていいかわからないといったように戸惑っている。
容易く抱きしめ返したりしないところが、彼らしい。
少しの間を置いてから恐る恐る頭を抱き寄せる、その大きな手に愛しさを感じた。
「明日、午後から半休なんだ。またどこか出かけないか?」
「いいんですか?」
「あぁ。どこでも構わないが……そうだ、駅前に美味しいプリン屋があると聞いたな」
プリン!と思わず顔がほころぶ。
それを見て、清貴さんはおかしそうに笑った。
ちょっとだけ、と言ったけれど、本当はもっとこうしていたい。
その優しさと温かさに、甘えていたい。
翌日。
午前中の仕事を終えた清貴さんとともに、私は箱根湯本の駅近くにあるプリン専門店へとやってきた。
水色の屋根に白い外壁と北欧テイストのかわいらしいお店に入ると、プリンの甘い香りと店員さんの明るい笑顔が迎えてくれた。
ショーケースには、プレーンからチョコレート、ストロベリーなどさまざまなフレーバーのプリンが並んでいる。