愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
買い物を終えた私たちは、近くのカフェで少し遅めのランチを済ませて散歩がてら駅前の通りを歩いていた。
「いい買い物ができましたね、食べるの楽しみです」
「喜んでもらえてよかった」
清貴さんが手にする水色の紙袋の中には、瓶に詰められたプリンが並ぶ。
「お店もとっても素敵でしたし、あのプリンも絶対美味しいです。私の美食センサーがそう言ってます!」
「美食センサー……?そんなのあるのか?」
「はいっ。都内にいたときもよく食べ歩きしてたので」
誇らしげに言うと、私はスマートフォンを取り出し、アルバムに入っている料理の写真を見せる。
「どんなに忙しくても疲れていても、日曜にご飯食べに行くのだけが楽しみで!」
「確かに、都内は店も多いしな」
ボリューミーなスイーツ、カフェのドリンク、小ぶりなパスタ……さまざまな写真をめくって見せる。
その中に一枚、唯ちゃんと撮った写真があった。
「あ、これこの前会った友達の唯ちゃんです」
「春生も彼女もいい笑顔だ。仲いいんだな」
「はい。明るい子で、なんでも話せる一番の友達なんです。私が仕事辞めてからは連絡取れてなかったんですけど」
何気ない話の流れから、自らその話題を出してしまったことにはっとする。
「そういえば、どうして春生は教師を辞めたんだ?」
「あ……」
案の定、たずねられたことに胸がギクリと嫌な音を立てた。
「まぁ、いろいろと大変で」
笑って誤魔化すと、それ以上はなにもいえなかった。
清貴さんが自分のことを知りたいと思ってくれている。
……なのに、知られることが怖い。
本当の自分、を。