愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「ただ信じてほしいのは、僕はあなたのことが好きだっただけで、傷付けたかったわけじゃないんです!」
やめて、もうそれ以上言わないで。
「今からでも遅くない。もう一度、僕とのことを考えて貰えませんか」
清貴さんの前で、それ以上。
「杉田先生っ……」
「やめて!!」
思わず荒らげた声に、彼は驚き黙る。
「信じてとか考えてとか……無理です、迷惑です!!帰って!もう来ないでっ……姿を見せないで!!」
勢いのまま言葉をぶつけ取り乱す。
そんな私の視界から彼を消すように、清貴さんは私の前に立ってくれた。
「すみません。彼女もこう言っているので、今日のところはお引き取り願えますか」
「けど僕はっ……」
「話があれば、私が代わりにうかがいますので」
そう言って名刺を取り出す清貴さんに、連絡先を得たことで口約束ではないと確信したのか、村瀬先生はその場を去った。
清貴さんとふたりになり、そこには少しの無言が流れる。
「……春生」
その空気を打ち破るように名前を呼ぶ声に、ビクッと肩が震える。
これ以上、聞かれたくない。
だって本当の私を知ったら、彼はーー……。
ぐっと唇を噛んだその瞬間、清貴さんが私の手に触れようと腕を伸ばす。
「やだっ……!」
咄嗟にそれを振り払い、大きな声をあげてしまった私に、清貴さんは驚いた顔を見せた。
やって、しまった。
凍りつくその場の空気に耐えきれず、私は逃げるように駆け出す。
「春生!」
その声に振り向くことはなく。