ようこそ、貴重遺品保管の舘へ。
ようこそ。
都会の真ん中の路地裏に構える古いお城のような舘。庭の花は綺麗に手入れされていて、小さな池には鯉が2匹仲良く泳いでいる。大きな扉のドアノッカーを3回鳴らせば、ゆっくり扉が開いていく。
「ようこそ、貴重遺品保管庫の舘へ。さあ、外は暑いでしょうから早く中へお入り下さい。」
私は日傘を閉じた。一瞬夏の日差しを肌に受けてヒリヒリとした。1歩中へ踏み出すとひんやりと感じられて心地よかった。
出迎えてくれたのは20代くらいの男の人。髪は茶色で少しウェーブがかかっている。天然パーマだろうか。身長は高くてとてもかっこよかった。なんといっても白い肌に対照的な黒い眼鏡が彼のトレードマークだろうか、とても似合っていた。
彼が微笑むと目尻が下がり、とても優しい印象だった。
「カウンター前の席にお座り下さい。」
中はとても静かで部屋の真ん中のカウンターの後ろにはたくさんの書類やダンボール、それに本が積み重なっていた。
私が席に座ると、カウンター越しに彼は私に質問した。
「それで、今日はどなたの遺品をご覧になりますか。」
私は言葉に詰まってしまった。今日ここへ来た理由は決まっていたが、いざ伝えるとなると手が震えてしまった。
彼は気遣ってくれたのか、
「冷たい飲み物はいかがでしょう。」
と私に尋ねてくれた。私は震える手を抑えながら頷いた。
すると彼の少し奥の方にいた少女に、
「真胡、お客様に冷たい飲み物を運んできてくれないか。」
と言ったのだった。