大切な1本をくれたキミ
日向と日陰
キーンゴーンカーンコーン、と鳴る予鈴が耳を通って頭の中で響き始めた時
教室中の椅子や机がガタガタと音をたてて、生徒たちは慌てて着席をする。
予鈴が鳴ってすぐに教室に入ってきた担任は、ショートホームルームを始めて出席確認を行ったり、諸連絡を伝え始めた。
いつもと変わらず、元気にだとか授業には集中してだとか言われるのだろうと思い
私はあくびをしながら机に腕を置いて気怠げに話を聞いていた。
「はい、次はえーっと……みんな噂でなんとなく知ってると思うが、このクラスに転校生がいるんだ」
だけど、担任の口から発せられた単語を聞いた瞬間、クラスの雰囲気はガラリと変わってざわつき始めた。
転校生の噂なんて一度も耳にしなかったため、もしかしたら知らなかったのは私だけ?
そう思いながら教室を見渡すと、みんなは顔に笑顔を浮かべてどんな人だろう、といった内容の話を周囲の席の子と話していた。
本当は私もそんな話がしたかったんだけど、残念なことに友達は別のクラスの子だったり、席が遠い。
まあいいか、と思いながら視線を担任へと向けると、先生は転校生が男だということを伝えてすぐに入れ、とドアの向こう側にいるであろう転校生に声をかけた。
ガラリと音をたてて開いた教室のドアの向こう側から現れたのは、少しばかり身長が高い男子。笑顔を浮かべてやって来た男子生徒は至って普通で、他の男子となんら変わりはなかった。
「朝比奈 日陽です。宜しくお願いします」
丁寧に自己紹介をした朝比奈、という男子はペコリと頭を下げて眩しい笑顔をみんなに振りまいた。
にしても、朝比奈 日陽て、名前が明るすぎる。性格が名前とよく合ってるな、と思いながらパチパチとみんなに合わせて拍手をした。
転校生が来るなんて初めてで、ただ終始ボーッとして迎えただけの私。軽い自己紹介も終えてホームルームが終わる、と思ったとき
「せんせー、朝比奈の席どうすんの?」
クラスの男子1名、瀬戸が机に頬杖をつきながら先生に向かって問いかけた。和久井の態度に先生が特に指摘することはなく
「朝比奈の席はどこでもいいと思うんだが、ついでに席替えするか。どうせもうすぐする予定だったしなー」
という軽いノリで席替えをすることに。先生、それでいいのか。
席替え、という単語に反応したクラスメイトたちは「やったー」だの「よっしゃー」だの喜んでいる様子。私としては周囲に静かで親切な人たちが集まってくれればいいのだけれど。
席替えはくじ引きなわけで、先生は教卓の下から四角い箱を取り出して、1人1枚引けと言った。するとみんなは砂糖を見つけた蟻のようにくじの箱の周囲に群がり始め、次々にくじを引いていった。
そんな人混みに紛れる勇気はなく、というか紛れたくなかった私は、みんながいなくなるのを席に座ったまま首を長くして待っていた。
しばらくしてくじの周りの人がいなくなった時、私は席を立って先生のもつくじの箱の中から紙を取り出した。
開いて確かめると、中に書かれていた番号は9という数字。黒板に席順が書かれているため、9の番号が書かれた席を探してみると、どうやら9は窓際の中央のよう。
窓際なだけよしとしよう、と思いながらくじの紙を折り畳み、席を立ってみんなと同じように席を移動し始めた。
とはいってもみんなが同時に動かすため、混雑するわ、ぶつかるわで一向に自分の席の場所にたどり着けない。
何かに夢中になると互いに避け合うという事すらできなくなる気持ちは分からなくもないが、移動し終えた人は手伝ってくれてもいいのではないか、と思ってしまう。
結局手伝ってくれた人は誰1人としておらず、時間をかけてなんとか自分の席にたどり着くことができた。
「あ、隣、暁なんだ。宜しくー」
「嫌そうに聞こえた気がしたのは気のせい?」
「んなことないない!隣なんて正直誰でもいいし」
瀬戸は笑顔をいつも絶えず顔に貼り付けていて、正直私はうさんくさいと思っている。今の軽い挨拶がよりうさんくさい。
別に嫌いというわけではないけど、話しかけられてはからかってくるため、話しかけるなら普通に話をしてほしいと思う。
瀬戸自体、自由気ままな性格のため、こちら側が遠慮したり気を遣う必要がないのはとてもありがたい。
「あ、そういえば、今日通学路の桜がすごく綺麗だったんだけど、暁は見た?」
「え、見たけど……」
「なんだよ、反応薄いな」
そう言われても朝は眠いため、見たとしても綺麗だとかそんな感想は浮かばなかったのだ。
そんな私の様子を見た瀬戸はしょうがないなと言いたげな目を向けてきたあと、ポケットからスマホを取り出して片手で操作し始めた。
スマホ禁止なのにいい度胸だ、と思いながら見つかったらどうするんだろうと心配してしまう。
「ほら」
そんな私の心配は、瀬戸に見せられた画像により消えてしまい、私の目は画像に釘付けになった。
「うわ、桜だ。これもしかして今朝撮ったの?」
「そそ。綺麗だろ?ていうか、俺の撮影技術神か」
自分で自分を神だと称する瀬戸は、桜の画像を私に見せたあと、スマホをいじって私のスマホに同じ画像を転送してきた。
何故か「俺の撮影技術は神」という文字が添えられており、私は思わずクスクスと笑い声を漏らしてしまった。
「インスタ載せよー」
「ついでにその文字も添えておきなよ」
騒がしいのは苦手でうるさいのも苦手。瀬戸は自由気ままで他人の事なんてあまり気にしないタイプだから、結構うるさいものだと思い込んでたけど、この調子なら案外隣でもやっていけそうだ。
教室中の椅子や机がガタガタと音をたてて、生徒たちは慌てて着席をする。
予鈴が鳴ってすぐに教室に入ってきた担任は、ショートホームルームを始めて出席確認を行ったり、諸連絡を伝え始めた。
いつもと変わらず、元気にだとか授業には集中してだとか言われるのだろうと思い
私はあくびをしながら机に腕を置いて気怠げに話を聞いていた。
「はい、次はえーっと……みんな噂でなんとなく知ってると思うが、このクラスに転校生がいるんだ」
だけど、担任の口から発せられた単語を聞いた瞬間、クラスの雰囲気はガラリと変わってざわつき始めた。
転校生の噂なんて一度も耳にしなかったため、もしかしたら知らなかったのは私だけ?
そう思いながら教室を見渡すと、みんなは顔に笑顔を浮かべてどんな人だろう、といった内容の話を周囲の席の子と話していた。
本当は私もそんな話がしたかったんだけど、残念なことに友達は別のクラスの子だったり、席が遠い。
まあいいか、と思いながら視線を担任へと向けると、先生は転校生が男だということを伝えてすぐに入れ、とドアの向こう側にいるであろう転校生に声をかけた。
ガラリと音をたてて開いた教室のドアの向こう側から現れたのは、少しばかり身長が高い男子。笑顔を浮かべてやって来た男子生徒は至って普通で、他の男子となんら変わりはなかった。
「朝比奈 日陽です。宜しくお願いします」
丁寧に自己紹介をした朝比奈、という男子はペコリと頭を下げて眩しい笑顔をみんなに振りまいた。
にしても、朝比奈 日陽て、名前が明るすぎる。性格が名前とよく合ってるな、と思いながらパチパチとみんなに合わせて拍手をした。
転校生が来るなんて初めてで、ただ終始ボーッとして迎えただけの私。軽い自己紹介も終えてホームルームが終わる、と思ったとき
「せんせー、朝比奈の席どうすんの?」
クラスの男子1名、瀬戸が机に頬杖をつきながら先生に向かって問いかけた。和久井の態度に先生が特に指摘することはなく
「朝比奈の席はどこでもいいと思うんだが、ついでに席替えするか。どうせもうすぐする予定だったしなー」
という軽いノリで席替えをすることに。先生、それでいいのか。
席替え、という単語に反応したクラスメイトたちは「やったー」だの「よっしゃー」だの喜んでいる様子。私としては周囲に静かで親切な人たちが集まってくれればいいのだけれど。
席替えはくじ引きなわけで、先生は教卓の下から四角い箱を取り出して、1人1枚引けと言った。するとみんなは砂糖を見つけた蟻のようにくじの箱の周囲に群がり始め、次々にくじを引いていった。
そんな人混みに紛れる勇気はなく、というか紛れたくなかった私は、みんながいなくなるのを席に座ったまま首を長くして待っていた。
しばらくしてくじの周りの人がいなくなった時、私は席を立って先生のもつくじの箱の中から紙を取り出した。
開いて確かめると、中に書かれていた番号は9という数字。黒板に席順が書かれているため、9の番号が書かれた席を探してみると、どうやら9は窓際の中央のよう。
窓際なだけよしとしよう、と思いながらくじの紙を折り畳み、席を立ってみんなと同じように席を移動し始めた。
とはいってもみんなが同時に動かすため、混雑するわ、ぶつかるわで一向に自分の席の場所にたどり着けない。
何かに夢中になると互いに避け合うという事すらできなくなる気持ちは分からなくもないが、移動し終えた人は手伝ってくれてもいいのではないか、と思ってしまう。
結局手伝ってくれた人は誰1人としておらず、時間をかけてなんとか自分の席にたどり着くことができた。
「あ、隣、暁なんだ。宜しくー」
「嫌そうに聞こえた気がしたのは気のせい?」
「んなことないない!隣なんて正直誰でもいいし」
瀬戸は笑顔をいつも絶えず顔に貼り付けていて、正直私はうさんくさいと思っている。今の軽い挨拶がよりうさんくさい。
別に嫌いというわけではないけど、話しかけられてはからかってくるため、話しかけるなら普通に話をしてほしいと思う。
瀬戸自体、自由気ままな性格のため、こちら側が遠慮したり気を遣う必要がないのはとてもありがたい。
「あ、そういえば、今日通学路の桜がすごく綺麗だったんだけど、暁は見た?」
「え、見たけど……」
「なんだよ、反応薄いな」
そう言われても朝は眠いため、見たとしても綺麗だとかそんな感想は浮かばなかったのだ。
そんな私の様子を見た瀬戸はしょうがないなと言いたげな目を向けてきたあと、ポケットからスマホを取り出して片手で操作し始めた。
スマホ禁止なのにいい度胸だ、と思いながら見つかったらどうするんだろうと心配してしまう。
「ほら」
そんな私の心配は、瀬戸に見せられた画像により消えてしまい、私の目は画像に釘付けになった。
「うわ、桜だ。これもしかして今朝撮ったの?」
「そそ。綺麗だろ?ていうか、俺の撮影技術神か」
自分で自分を神だと称する瀬戸は、桜の画像を私に見せたあと、スマホをいじって私のスマホに同じ画像を転送してきた。
何故か「俺の撮影技術は神」という文字が添えられており、私は思わずクスクスと笑い声を漏らしてしまった。
「インスタ載せよー」
「ついでにその文字も添えておきなよ」
騒がしいのは苦手でうるさいのも苦手。瀬戸は自由気ままで他人の事なんてあまり気にしないタイプだから、結構うるさいものだと思い込んでたけど、この調子なら案外隣でもやっていけそうだ。