あの滑走路の向こう側へ✈︎✈︎✈︎
十、新たな決意
外は厳しい北風が吹きつけていても、
もみの木や赤いリボンで飾られた空港は
どことなく暖かい雰囲気が漂っていた。
足の骨折も回復した美香が唯に言った。
「クリスマスですな」
「え? 何それ、食べれるの? 美味しいの?」
「美味しいモノいっぱいよ〜」
「食べさせてくれ〜」
「っていうか、クリスマスは恋人の為の
ものじゃないの?」
「いいんです、うちは浄土真宗ですから」
「キリスト教の学校、10年行ったけどね?」
唯と紘太にクリスマスはない。
でも正月に会う約束をしていた。
元日が紘太の誕生日であり、
二人が出逢った日だったから、
クリスマスより、唯にはずっと大切な日なのだ。
元日、前年同様、唯は早番で、
滑走路の向こうの初日の出を迎えたのだが、
今年は面持ちが違った。
あの滑走路を越えて、その先へ飛び立てる、
そう思った。
勤務を終えた唯は、
同じく元日から宿直に出ていた紘太の部屋で、
誕生日を祝った。
ケーキを食べ終えた唯は、
新たな決意を紘太に話した。
「私ね、今年度で、仕事辞めようと思ってるんだ」
「なんで? 憧れの職業とかじゃなかったの?」
本当は、不規則な勤務と、空港が郊外で遠くて、
紘太に会いにくいのが、大きな動機だったが、
唯の口から出たのは、小さな方の動機だった。
「もうね、結構やり切ったかなと思って。
友達はみんな、日経読んでキャリア積んでるのに、
私だけ、バイトの延長みたいな気分でいたら
ダメだなと思って、転職を考えてるんだ。
あと全然憧れじゃなくて、ただの元飛行機オタク」
「相談もせず決めて、ゴメンね」
いつも全力で仕事に向き合ってる唯を思うと、
突拍子もない思いつきのように感じたが、
紘太は賛同した。
「唯の人生だから、応援するよ」
「ありがとう」
「って言うか、飛行機オタクなの?」
「いや、まぁファン程度よ、中学の頃、ちょっとね。
戦闘機も旅客機もね。米軍基地にF15とか見に
行ったりね、あの頃ロールアウトしてなかった
夢のトリプルセブンが、就職したら普通に職場に
いたのは、内心興奮したね」
「いやー、唯の口からF15とか出るとはね」