あの滑走路の向こう側へ✈︎✈︎✈︎

十一、あの滑走路の向こう側へ



厳しい朝の寒さも緩んできた3月、
唯は早番で職場へ車で向かっていた。

冬の早番の出勤時はまだ夜の続きのような空だが、
この頃には、夜明けを見るようになっていた。

「春はあけぼの、やうやう白くなりゆく山ぎは
 少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる」
唯は口ずさんだ。
「ようよう白くなりゆく山際を見ながら出勤とか、
 転職したらもうないだろうな」

この日は、唯のラストの日だった。

勤務が終わると、挨拶をして、花束など貰った。
同期の美香が涙ぐんでいた。
「唯が辞めちゃったら、同期0じゃん」
「後輩に仲良くしてもらいな」

搭載、貨物、運航など他の課に挨拶して周ると、
ちょうど出発便の準備が整ったところだった。

ドアが閉められ、
ボーディングブリッジが離れていき、
トーイングカーに押し出されていく飛行機に
ランプから唯は手を振っていた。

ふと携帯を見ると、紘太からメールが来ていた。
「卒業おめでとう、お疲れ様」

タキシングしていた飛行機が、
向きを変えて止まると、
エンジン出力が上がるのが聞こえた。

ついに私は、あの滑走路の向こう側へ、
新しい世界へと飛び立ったのだな、と
唯は駆け出した。



【第1章 完】    

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