あの滑走路の向こう側へ✈︎✈︎✈︎
第4章✈︎✈︎✈︎✈︎ 史緒里@空港
一、プロローグ
出会いは、職場だった。
「午後一の羽田便、エアターンバック(*1)だって」
「ひぇー、羽田上空、荒れてて、
ワースト(*2)ついてたけど、帰ってくるかー」
「1時間後だよ、準備してー!」
2年目の旗野史緒里は、同僚達の言葉に応えた。
「私、チェックインカウンター担当なので、
振替分、次便の予約押さえてもらいますね」
それぞれが、払戻や代替えの地上交通の案内など
バタバタと準備に追われていた。
「羽田から戻った便、ランディングしました!」
「了解しました」
平日の午後の便で、
そこまで混雑してなかったとは言え、
二百人余りの手続きで、
カウンターは慌ただしくなっていた。
やっとカウンター前の人々がはけた頃、
一人の男性が史緒里の方へ近付いてきた。
「いらっしゃませ」
史緒里が対応すると、男性が言った。
「旗野だよね?」
史緒里がいかぶしげな顔をすると
男性は搭乗券を提示した。
「え? 石田っち? 分かんなかった」
史緒里は驚いて言った。
「そーそー、羽田からまた舞い戻って来たよ」
「えー、あの便に乗ってたの?
ご迷惑おかけいたしまして、
大変申し訳ございませんでした」
史緒里は少し仰々しく謝罪した。
「まぁ、俺は予定は明日だったから、
大丈夫なんだけどね。
ただ一緒に乗ってた先輩がさ、
飛行機が随分揺れたから気分悪くなっちゃって、
空港で薬とか売ってるトコあるかな?」
聞けば、石田は大学院生で、
学会の為、先輩と東京に向かうところだった。
史緒里が薬局の場所を説明すると、
石田は薬を買いに去って行った。
*1 エアターンバック : 到着空港に着陸できず
出発空港に帰って来ること
*2 ワースト : 条件付き就航。今回の場合、羽田に到着できない場合、出発空港に戻るか、他の空港に着陸するかもしれないという条件付きでの出発