あの滑走路の向こう側へ✈︎✈︎✈︎
七、雨の高速道路
紫陽花が雨に濡れる季節、
空港は霧と戦う日々である。
今日の勤務は、
同期の美香と一緒だった。
「昨日も霧でディレイ続いた上、最終便が欠航よ?
今日はホント、ノーマル運航頼む!」
「さっき、ディスパッチさんがあと2時間ぐらいで
雲が下りてくるって言ってたよ」
「はー、今日もイレギュラーか」
美香は続けた。
「唯、その後、彼氏と会えた?」
「いや」
「ん?前会ったの、先月じゃなかった?」
「そう」
「次、いつ会うの?」
「お盆の予定」
「3ヶ月会えないって事?」
「そう」
「ノロケ話でも聞こうかと思ったら、
そんな事になってるとはね」
「ご期待に添えませんで」
と言いながらも、唯の心は軽かった。
遅番から帰宅して寛いていた唯に
美香から電話がかかってきた。
「唯、助けて…」
「何?どうしたの?今どこ?」
「マンションの階段降りてたら、
雨で濡れてて滑っちゃって、階段から落ちて、
足が痛すぎて動けない…」
「待って、すぐ行く!」
唯が車で駆けつけたら、
美香は階段下でうずくまっていた。
「美香!大丈夫?」
「こんな時間にゴメンね」
「そんなの、いいのよ。病院行こう」
と言ったものの、
職場近くに引っ越した唯も美香も、
最寄りの夜間救急病院が分からなかった。
唯は紘太に電話した。
「忙しい時にゴメン、唯だけど」
「うん、今、ちょうど大丈夫」
「実は、同期が階段から落ちて、
足を怪我したみたいなんだけど、
この辺の夜間救急病院知らなくて」
「ひどいの?」
「すごい色になってて
一人で歩くのもツライみたい」
「そこからだと、ちょっと遠いけど、もし友達が
我慢できるなら、うちの大学病院来る?」
「彼女の実家、そっちの方だし、我慢するって」
美香に肩を貸し、車に乗せると、
紘太の病院へ、唯は高速道路を急いだ。