あの滑走路の向こう側へ✈︎✈︎✈︎
十七、オーバーセールス
アナウンスで呼び出された乗客に声を
掛けられ、玲奈は応対した。
「お客様の運賃なのですが、
こちら、満席の時にはご利用頂けない
運賃でございます。
申し訳ございませんが、次の便に
振替させて頂けますでしょうか」
「なんだと?これは自分の仕事関係の会社から
ただで乗れるって言われてチケット貰ったぞ!
いつでも使えるって聞いてる!
降ろされるなんて、聞いてないぞ!」
目の前の飛行機に乗れないと聞いた客は
猛然と怒り始めた。
「大変申し訳ございません、
こちらの運賃はですね…」
怒りの収まらない客に、玲奈は説明を続けた。
じきに、誰かがヘルプを呼んだようで、
男性上司が急いで走り寄ってきた。
白髪まじりの上司が、
ゆったりと説明すると、
怒っていた客も、落ち着きを取り戻してきた。
気付けば、混み合っていた改札も落ち着き、
パラパラと足早に乗客が駆けてきた。
振替の2人の手続きは、
カウンターからのヘルプにお願いして、
玲奈はファイナルコールをかけた。
まだ搭乗してない乗客を調べた。
「うわ、これ家族連れじゃん!」
玲奈は無線を取った。
〈こちらゲートです、インファント連れ、
家族4名様、トイレとかも捜索お願いします!〉
〈いらっしゃいました!自販機前でお子様が
大泣きしてらっしゃいます!〉
〈ゲート了解、シップに引き継ぎますので、
急いでご案内お願いします、どうぞ〉
泣き叫ぶ子を担いだ父親と
赤ちゃんを抱っこした母親が
係員に誘導されてゲートに駆け込んできた。
「ゲートクローズしまーす」
玲奈は手際良く処理していき、
乗客データの書類をちぎると、
無線を持って、シップサイドにダッシュした。
ドアクローズして、
這う這うの体でゲートに戻ると、
ヘルプの上司やカウンター係員も、
怒っていた乗客などもいなくなっていた。
外から、トーイングカーの
クラクションが薄っすら聞こえてきた。
振り返ると、
真夏の太陽で空気がゆらゆらした
その向こうに滑走路へ押し出される飛行機が見えた。