あの滑走路の向こう側へ✈︎✈︎✈︎

十九、カフェで




あぁ、あの時は、目の前のトラブルを
対処するのに精一杯で、
すぐ横に待たせていた崇なんて、
意識から吹っ飛んでいたけど、
崇はバッチリ一部始終を見てたんだな、
玲奈は改めて思い知らされた。

「うん、あの上司はね、
 お客様もホントはこっちが正しいって
 解ってるんだ、だから、話を聞いてあげると、
 意外とあっさりトラブルが収まるんだ、
 ってのが持論でね。

 まぁでも、上司が出てくる前に、
 説明する事は説明しないとだし。
 なんて言うか、私は当て馬よね」

玲奈は力なく言った。

崇には、玲奈が疲れているように見えて
1人にした方がいいかと思ったのか、
コーヒーを飲み干すと言った。

「じゃぁ俺、ちょっと本屋でも行ってくる。
 ほら、さっきの戦利品でね」

崇は、玲奈の航空会社のマークが入った
封筒をひらひらさせた。

「一万円あったら、本何冊買えるよ?」

イタズラっぽい顔で言うと、
ごゆっくり、と崇は席を立った。

1人残された玲奈は、
ポツンとパンケーキセットなどを、
無理矢理流し込んだ。

短い休憩を済ませたその後も
怒涛のごとく次々と仕事をこなした。

昼になっていくと、
積み重なった到着便の遅れが
出発便の遅れとなり、
現場はますます混乱していった。

それをほっぽり出す事も出来ず、
後輩を帰しても、玲奈は
バックヤードでフォローしていたら、
勤務から上がったのはもう夕方だった。

ロッカーでケイタイを見ると、
崇からメッセージが入ってた。

〈お疲れさん。しばらく東京なんだけど、
 戻ったら、うちおいでよ。
 会わせたい人もいるんだ〉

あぁ、あの外国人の…
過酷な勤務でヘトヘトの体に
鞭打つようなメッセージ。

返事をする事もできず、
玲奈は退社した。




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