神埼探偵事務所
「サクラ、残業代やるから久本さんに珈琲入れてやって。で、いつものノートとペン頂戴。」
「了解。久本さん、珈琲はブラックで良かったですよね?」
「そうそう。……本当、サクラちゃんはお父さんのマサキさんに良く似て記憶力が良いね。大河君がホームズならサクラちゃんはワトソン博士か〜」
「いやいや、こいつ博士号も無いっすよ。」
「ははっ、相変わらず言うねえ。」
久本さんは私のお父さんが現役で捜査一課に居た時の事をよく覚えているらしい。
大河のパパが警察庁組のエリートだとしたら、うちのパパは叩き上げの部類だったと思う。それでも、家族同士で仲良く出来ているのは、お父さんの人柄なのかな。
記憶力の良さって人間関係を円満に進める為に必要なスキルとも言うしね。
「で、今回はどういった事件っすか?コーヒーが来る前に聞くのも急かしてるみたいで申し訳ないっすけど。」
無邪気にそう笑う大河の笑顔は、まるで今から残虐な事件や国家機密を知ろうとしている者の笑顔とは思えない。
やっぱりこいつって…どこか普通の人間とズレてるよなあ。なんて当たり前の事を再確認しながら、淹れ終わったコーヒーを久本さんの前に置いた。
そしていつもの様に、ノートとペンを大河に渡してから少しだけ距離を明けて横に座る。
何度座っても、高いだけあってこのソファーの座り心地は最高だ。
「──先ず最初に言わせてくれ。」
「はい?」
「この事件は、今まで大河君が経験してきた警察のメンツを保つ為に解決しなきゃならない様な事件や、国家間のパワーバランスを保つ為に依頼してきた様な他国や秘密結社の様な嫌らしい考えを持つ物じゃない。」
「1種、2種と受けてきた試験や出身大学なんて関係無く…ただ…」
「日本の警察という組織全てに関わる者が、純粋な気持ちで『解決しなきゃならない。』と──そう思ったが故の依頼なんだ。」
いつもに増して真剣そうな表情の久本さん。
目は口ほどにモノを言う。そんな昔からの言葉を直に感じるほどに、今までの事件とは何かが違うと流石の鈍い私でさえも分かった。