神埼探偵事務所
「……はははっ!!…ッ、ごめんごめん。ついつい、面白くてさ。ははっ!」
BGMが突然、バイオリンの間奏に入ったと同時に平沢君が大きく笑い出す。
さっきまではニコニコ私達の事を見つめていたチーママも、流石に笑い方を見て平沢達也が普通の人では無いと思ったのだろう。
少しばかり顔が引きつっていた。
「サクラが神埼大河からどんな話しを聞いて、突然俺に接触しようと思ったのかは分かんないけど。」
「まあ、この場所を選んだ所を見ると、俺が先導して小さい子を拐ったとでも思った?だから、自分が被害を受けない様に、こうやってボチボチ流行ってる店を選んだ?」
「それは違う。……確かに大河と事件の話しはするけど、私が勝手にあなたと事件の関係性を覚えただけ。」
「ああ、そう。まあどこまで本気かは俺も分かんねえし信じてないけどな。」
「聞きたいってか?」
「俺の知ってる事を。」
支配欲?独占欲?彼が私に抱いてるのはどちらなんだろう?
大河の側に居ると分かってる私に事件の概要を話す事で、司法取引でも望んでいるのか?それとも…ただ単にパワーポイントを取りたいだけなのか。
「知りたい。」
「素直だな。良い子だ。じゃあ教えてやる。」
頼んだビールをグラスに注ぐ事無く、そのまま直瓶で思い切りポップを流し込んだ平沢は何気にお酒強い事が今日、発覚した。
何回かご飯を食べに行った事が在る私たち2人だけど、あの時は平沢自身本調子じゃなかったのだろう。
「俺はな、親父の為だけに生きてきたんだ。」
「親父は俺が物心付いた時から本出したり、テレビに出たり、出張や会合で全国飛び回ったりと絵に描いた様なエリートだった。……俺も、そんな親父の背中を見て、エリートにならなきゃいけない。とそう思ってた。」
「死ぬ気で勉強して、学校では常に成績は上位。国公立の医学部にストレートで合格もした。習い事も頑張った。……でも親父は、そうやって必死に生きてる俺よりも、たかが公園で会っただけの1人の女の為に生きてたんだ。」
【たかが公園で会っただけの1人の女】
……これは私の事だろう。