神埼探偵事務所



「ある日突然、親父が帰宅したと同時に玄関口で泣き叫んだ事があった。母親も、親父の様子が可笑しい事には気付いていたし、テレビに出る小学生を見つけてはニヤけたり、キレたりしてる姿を見てあんまり近付かなくなってた。」


「でも……まあ、俺も餓鬼だしな。小学5年生の時、そんな泣き叫ぶ父親を見て居ても経っても居られなくなり、玄関まで走ってあいつを出迎えたんだ。」



❝じゃあ、あのクズはこう言った。❞


❝お前は何でサクラじゃないんだ。❞




「壊れた人形の様に、ずっとそう呟きながら俺を……犯した。」



「──……、犯し…た?」




「ああ。玄関口でな。そんで、その次の日にお袋は荷物まとめて出て行ったよ。」

「小学生の俺はどうする事も出来ずに、そっから毎晩毎日、親父の顔色を伺う羽目になった。」



「勿論、機嫌の良い時や調子の良い時は金持ちのボンらしく色んなモン食わせてもらったり、連れていってもらったりもしたさ。……でも3日に1回は、サクラだ何だって呟きながら俺を抱いた。まるで、俺をそいつだと思い込む様に。」



「殴られた事もあったし、キレられた事もあった。何をされたかなんて一々今言い出したら夜が開ける.…ってなレベルでな。」



淡々と、私が想像もしていなかった事実を述べる平沢達也を見ている私とチーママの瞳には、色なんてモノはない。同情も無ければ、愛情も。


ただただ、その話しに驚くばかりだった。




「でもな、家族ってのは不思議なもんで。どんな事をされても、死ぬ程キラってても、やっぱり親父に褒められると嬉しかったし、たまに普通に飯食って話せた日なんて嬉しくて寝れなかった位だ。」


「だから褒められる為に頑張った。」




「頑張って……生きた。」




「でもある日、気付いたんだ。親父がデスクに置き忘れた患者が何かの基準でフォルダ分けされてることにな。調べれば調べるほど、考えれば考えるほど、その患者達は親父の信者だって事が分かった。」

「時たま見るニュースで連日報道されてる誘拐事件の現場がその信者達の住所のすぐ近くだって事も、調べれば分かってきた。」



「───その時に、思ったんだ。」




「どんなに俺が寄添おうと努力しても、俺が平沢達也として生きようと努力しても、あのクズ野郎はサクラなんて云うワケの分からねえ女に取り憑かれてる。そして、親父がその女の呪縛から解放されない限り、俺の自由もないってな。」



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