神埼探偵事務所
「じゃあ、神様は最後の最後で俺にチャンスをくれた。」
「どうにかしてサクラを親父より先に見つけてやろう、と腹の底で企んでる俺が仕事を早抜けして喫茶店にでも行こうと捕まえたタクシーの運転手が、これまたよく喋るおっさんだったんだよ。」
「………ッ!」
タクシー運転手、という言葉で私の頭が真っ白になった。……まさか、とは思う。
けど、多分そのまさかだろう。
「娘が居て、俺は元警察官で、その娘は大阪の繊維会社に就職したってな。よく笑う良い子で切り絵が得意で、名前はサクラってんだ、って。」
「親父から❝愛しのサクラ❞の両親は、キチンとした職に就いていると思う。なぜなら、服装やランドセルの質が良かったから、って事は聞いていたからな。すぐにピンと来たよ。」
「……と同時に、笑いが止まらなくなった。」
「どんなに頑張っても、寄添おうと努力しても、クソサイコの隣にさえ並べなかった俺が、このサクラを捕まえる事が出来たらあいつの一歩上を行けるんだからな。……いや、それだけじゃない。その女を武器に、俺は今までの事を全て復讐出来るんだ、あいつに。」
「そう思うと、身体が勝手に動いたよ。あいにく、国公立の医学部をストレートで卒業してるし、親は金持ちだし、大阪に在る繊維会社を全社受けて全部内定もらったんだからな。」
「で、採用担当の人に入れ組んでサクラって名前の女が居ないかとか色々聞きまくった。……3社目で見つけたんだよ、切り絵が得意な女の子が俺と年齢が近く、サクラって名前だってな。」
──人生とは不思議なものだ。
私と大河が結ばれる運命にあったとするならば、私と平沢達也も逢う運命にあったのかもしれない。
しかもその縁を結んだのが、過去の事件が原因だとは云え私を愛して止まないお父さんだ、なんて私でさえもサイコパスではないはずなのに、大笑いしてしまいそうだ。
「………なあ、サクラ。」
「俺が海と死にたいって言ったの、本当にただ単に海が好きだからだと思ったのか?」
「違うんだよ。」
「俺は……」
「青海サクラ、お前の脳も記憶もお前を愛して止まない奴も………全員、この手で殺してやりたいんだ!!」