神埼探偵事務所
ずっとソファーに座っていたから疲れたのだろう。両手を上に挙げて大きく伸びをする大河の肩を揉む。
「なんだよ。」
「ううん、お金は要らないって格好良い事言うなあって思ってさ。」
「あんなあ、第一オレは金の為に探偵やってるんじゃないっての。」
「知ってるわよ。自分が心踊る捜査しかしたくないから、警察官にはならなかったって事もね。」
ふんっと鼻で笑いながら、デスクの上にあるパソコンの電源を付けた大河。この笑い方は照れてる時のものだって事、幼馴染の私なら分かるんだよね。
「それなら話し早いだろ。ちょ、煙草投げて」
「あ、ずるい〜。私も吸おっ」
「勝手にしろや。どうせ捜査資料も一緒に見る気だろ?」
「あー、それは迷ってる。気になるけど…でももう8時だしそろそろ帰らないと明日も早いしね。」
「──え、もう8時?」
「うん、そうだよ。気付かなかった?」
ほい、っと私の投げたセブンスターとライターをまるでメジャーリーガーの様に軽くキャッチする。
「………。」
「何よ、急に黙り込んで。」
「いやっ、……。」
「なに?いつもの様に6時過ぎたら危ねえからとかでタクシー代でもくれるの?」
変な所、過保護な部分がある彼はこうやって残業で私が帰宅するのが6時を過ぎるとタクシー代だ、とお金を握らせるし、帰るまでの間絶対に電話を切るな、と念押しされる。
本当はタクシー運転手さんと話したりもしたいけど、何年もこういう状況が続いてるから、それが当たり前になりつつあった。
「今日は帰んな。」
「──ッ、はあ??」
「だから、今日は帰んな。オレん家泊まってけ」
「いや……いやいやいや!話し聞いてた?私、明日仕事で朝早いし、まず何がどうなってアンタん家に泊まるって話しになるわけ?」
「ああ?良い年した大人が何照れてんだよ。誰もお前みたいな色気もクソも無いやつに手出さねえし、出すほど困ってもねえわ」
「はい??それなら言い返すけど、良い年した大人なんだから、別に何も危なく無いし普通に私の家に帰らせてくれる??」
「──ッ、だから俺が泊まれって言ってんだから泊まってけって話しだろうがよ!!」
「意味分かんない。私はアンタと違って普通の社員だから朝も早いし「…サクラ、それ以上言ったらおめえ此処でブチ犯すぞ。それでも良いなら続けろや。」
久しぶりに聞いた、こんなセリフ。
───いつもそうだ。
私が何かを否定した時、大河がどうしてもそれを私に通したい時……私が照れて下を向き、彼に頷く事を知ってるから、こんな事を言う。
そしてまた今日も、一歩上手の彼の言葉に乗ってしまうのだ。