神埼探偵事務所
「その男、どんな男なんだよ?」
肩に置かれた両手にギュッと力が込められる。
妬いてんのかな…と思ったけど、多分違うだろう。私の事を誰にも渡したくないのなら、灰皿の中にあった口紅の付いた煙草位捨てると思う。
し、何度も言う様に私と大河はただの幼馴染。
「どんなって……中途採用で入社してきた男の子だけど?平沢君って子。」
「平沢?犯罪者じゃねえだろうな?」
「違うわ!普通に国立大学の医学部出身の子よ。開業医の家に産まれて引かれたレーンを歩いて来たけど、元々物流に興味が有って、それでうちの会社に来たらしい。」
「開業医って事は「そこそこお金持ちじゃない?大河ほどのロイヤルファミリーじゃないけど。」
「犯罪者とか……サイコパスじゃねえんだよな?」
チワワが飼い主を見つめる様な、か弱くて潤んだ瞳。身長差なんて30センチは有るはずなのに、何故か目の前の幼馴染が可愛く思えた。
「ははっ、この目で何度も犯罪者とか大河みたいな事件大好き野郎を見てるからサイコパスだったら直ぐに分かるわよ。心配ありがとう。」
「どちらかと云うとロマンチックな人じゃないかな?」
「何でそう思うんだよ?!」
……ちょっとイラついてるのか何なのか。
肩から手を離してくれたと思ったら、次は可愛いボストンバッグの中に無理やりノートパソコンを詰め込みながら、語尾を強めてそんな事を聞いてくる。
「何でって……」
「んー会話の節々とか?」
「僕、海が好きで海と一緒に人生終われたらなって思うんですって言ってたし。」
「私の名前を聞いて、桜の花って素敵ですよね〜。キレイけど儚いからこそ大事にしたくなるんだ。って言ってくれたり。」
「お前それサイコパスだろ、絶対に」
「いやいや、サイコパスじゃないでしょ。私も大河に良く言うじゃん。バラは棘があるから美しい。って。それと同じ感覚だよ。」
「いや、それとこれとは違うだろ。」
「第一、どこの世界に落としたい女目の前にして花だの海だの語る男が居るんだよ。そんな女々しい男、何かあった時にサイコパスに豹変するに決まってんだろうが」
「いやいや、どういう脳みそ持ったらそんな思考回路になるわけ?」
「天才の俺には分かるんだよ。凡人のお前には分からなくてもな。」
「なっ、凡人って…!何もそこまで言わなくていいじゃない!」
「ああ?!」
「何よ!」
「……あのなあ!男ってのは!」
真っ白のアイロンがかけられたシャツに黒色のスキニージーンズ。それに茶色のトレンチコート。
とてもシンプルな服装だけど、格好良くて身長が180センチ以上有る大河にかかれば、まるで全てがグッチのファッションショーに出てきそうな程上品で高貴そのもの。
ボストンバッグを肩に掛け直した彼に続く様に私も急いでブーツのファスナーを上げた。
「で、何よ?男ってのは?」
「………。」
「ちょっと、大河?」
「あー!うるせえ!」
「分かったよ!言ってやるよ!」
「良いか!男ってのはな、本気で好きになった女には失いたくないからこそ、発する前に1つ1つを考えてそんな甘ったるい言葉言えない生き物なんだよ!」
「だから不器用だとか冷たいだとか言って、バカな奴は甘い言葉をかけてくれるサイコパス野郎に流れるわけだ。わかるか?」
「お前の事を本気で愛して、心配してくれる様な男はな!ロマンチックなんて絶対思われねえほど、不器用でアツい奴なんだよ!!」
「お前も26なんだからそれ位分かれや、このアマ!」