神埼探偵事務所
話しは3時間に及んだ。
大河の隣で書けるだけの情報を書き続けていた私の左手は限界を迎えている。
久本さんから支給された庁用のスカイラインを運転している大河と私が向かっているのは、渋谷区藤ケ谷に有る神埼邸。
藤ヶ谷と云えば元内閣総理大臣や、旧財閥系の会長等が住んでいる東京の一等地だ。
どうやら今日は大河ママが可愛い二人の帰省と、久しぶりの再会になる私の実の父親も来る事を祝って、すき焼きをご馳走してくれるらしい。
話し合いが始まったのは3時半。今はもう7時過ぎ。そりゃあお腹も空くに決まってる。
久本さん達エリート組から夕飯のお誘いが有ったけど、協調性に欠ける彼は『今日はコイツと飯会なんで。』と素直に断りを入れていた。
馴れ合いが嫌いなのも──、彼の性格の特徴の1つかもしれないな。
「大河。」
「ん?」
「このスカイライン格好良いね。」
「あー、新型じゃねーの?俺もよく分かんねえけど。」
「……。」
「ったく、何だよ。言いたい事有るなら言えや。──いや、まさかオメェ…まだあのサイコ野郎の事根に持ってんのか?!」
「違うわよ!全然根に持って無いし付き合う前にアンタに報告した私が馬鹿だったって自分を恥じてるわよ!」
「…ッ、ならいいけど。じゃあ何だよ?」
「事件の事!」
「……めずらし、お前からそんな話ししてくるなんて。普段なら俺が聞かなきゃ言わねえじゃん。」
「うん。まあ、それはそうなんだけど…。」
「でもさ、大河。資料とか見て、実際に被害者家族と有って気付いた事無い?」
「気付いた事?共通点ってか?」
「そう。」
「……。」
「❝被害者❞だけを見ると、共通点と云う共通点は無いじゃん?年齢は皆近いけど、性別もバラバラだし、髪の長さとか顔立ちも違うし。」
「だな。それが警視庁が捜査に行き詰まってる理由の1つだろ。」
「うん。でも❝被害者家族❞には共通点が有る。」
「───父親が皆、大企業務めとか公務員の見るからにエリートそうな感じってか。」
「そう、それに加えて母親はどちらかと云うと派手な感じしなかった?清楚って言うよりは、ママ雑誌の読者モデルとかインスタグラマーやってそうな今風な感じの見た目。」
「確かに。金が有る家庭だから余計、だよな。」
「そう。私ね、それって結構重要なポイントだと思うんだ。」
「だからといって、直接犯人に結びつかないかもしれない。でも絶対に何か手がかりに成る事には結びつくと思うの。」
「言われてみれば確かに……そうだな。」
東京は相変わらずな町。車も多いし信号も多い。
さっきまでは順調に青信号ばっかりだったのに、あももうちょっとの所で信号に引っかかってしまった。
それなのに隣に座る大河の表情は何処か優しい。
「大河?どうしたの、そんな柔らかい表情して。」
「いや。お前がそうやって昔みたいに戻ってくれるの、何か懐かしいなって思って。」
「昔みたい?……あー、皆でサスペンス見たりとかして犯人はこの人だよ!とか言い合ってた時?」
「そ。──皆は、お前の的中率を子どもの第六感だとか言って信じてなかったけど、俺はずっと思ってた。」
『お前がシャーロック・ホームズで、俺がホームズに憧れてる工藤新一だ、って。』