神埼探偵事務所
最新の車だと云うのにバックカメラを一回も見ずに、サイドミラーだけで完璧に駐車を決めた大河は私が大の縦列駐車下手なのを知ってるからか、嫌味な笑顔を向けてから先に玄関のドアを開ける。
可愛いトイプードルのランちゃんを抱きかかえた大河ママの高い声が響いた。
「あ〜!!大河にサクラ!!パパ、マサキさん!帰ってきたわよ!!」
「ただいま。」
「大河ママ!ただいま!」
「ほらほら、寒かったでしょ。早く入りなさい。パパもマサキさんも、貴方達の事待たないでもうお酒飲み始めてるのよ。」
「あの人達って元からそういう感じじゃん。」
「ははっ言えてるわ、それ。てか、大河ママちょっと痩せた?」
「いーやー!太ったわよー!大河もサクラも居ないから毎日食べる事しか楽しみが無いの。」
やっぱり四歳の時からずーっとこの家族にお世話になってきてるからだろう。
大河ママも大河パパも私の事を実の娘かの様に可愛がってくれている。勿論、マサキさんと呼ばれている私の実父も大河の事を息子だと思っているけど。
「おっ、帰ってきたか我が愛しの娘よ〜」
「うわ、酔っ払ってるじゃん、マサキさん。」
「あのなあ、俺は酔っては無いよ。喜んでるだけだ。なあ、準夜?」
「ああ、ちょっと酔ってるけどな。」
準夜、と呼ばれているのが大河のお父さん。
外ではエリート中のエリートで本当に怖くて凄い人なのに、ウチのパパと話す時はこうやって柔らかい人になる。し、私にもとても優しくて愛情深い人だ。
「ルミ子、サクラと大河の分のビール出してやってくれないか。」
「はいはーい。ちょっと待ってねー!」
「いや、さっきまで準夜も良い感じでどれだけオレの息子は凄いのかって事を話してたんだよ。」
「またかよ。」
「ははっ、良い事じゃん?確かに大河は神の子じゃん?」
「な、お前バカにしてんだろ!」
「してないわよ、失礼な!ってか、それ私が食べようって目付けてたお肉なのに!もー!!」
「こらこら、二人とも大人なのに喧嘩しないでよ。はい、これビールね。今日も警視庁行ってたんでしょ?お疲れさま。」
「大河、準夜からチラッと聞いたぞ。今回の事件、相当難しいらしいな。」
「あ〜…まあ…。難しいっちゃ難しいかな。」
「何しろ確たる証拠が無いからな。」
「それが刑事にとっては一番困るんだよなァ。礼状取ろうにも取れない、犯人の目星すら付けれない、そうなった時に頼れるのは、お前の此処だけだぞ。」
と実の父親がドラマにでも出てきそうなセリフを吐きながら自分の胸を叩いてるのを見ると、吹き出しそうになってしまう。
この人は──借金の肩代わりなんかしなくてお母さんが居なくならなければ……ずっと刑事をやってただろうな。
昇進の誘いも断って、現場で困っている人達を助け続けただろう。
そう思うと、人間の人生ってのは儚いものだ。