神埼探偵事務所
前回、大河のオフィスで起きたのと同じ位の耐え難い頭痛が私を襲った。
ウッと低い声を出して頭を抱える私を見た隣で、急いでお箸とグラスを置く音がする。
「ッ、おい!サクラッ!!」
「どうした?大丈夫か?」
「……ッ、頭が、めちゃくちゃ痛い…ッ」
脳奥からカッターナイフの様な物で神経をグリグリと抉られるこの感覚。そう、これこそがたまに私を襲う頭痛なのだ。
よくある偏頭痛の様に雨の日に起こるとか、気圧がどうたらとかそういう次元の話しじゃない。
この……
この頭痛のせいで私は切り絵の完成にいつも時間を取られるんだ。
「…ルミ子!水とスーパーか何かの袋だ!」
「で、今直ぐに窓のシャッターを閉めろ!!」
「はい!」
バタバタと私の為に動く大人達の声も鮮明に聞こえる。情けない話しだなあ、いくつになってもこうやって落ち着きの欠片も無いのが青海サクラ25歳だ、なんて。
「サクラ、大丈夫か?息、吸えるか?」
「……ッ、まだ痛いッ…!!」
「大丈夫、大丈夫だから。」
優しい声色と共に一気に人の暖かさに包まれる私の身体。ああ、大河に抱きしめられてるんだ、と気付くまでに時間はかからなかった。
「痛い…ッ、頭がッ──!」
「痛いな……痛いよな。でも大丈夫だから。深く息吸ってオレの目見て。」
「無理ッ…!」
「大丈夫。サクラなら出来るから。」
「お前は何もしてないし、何も悪くない。」
「ただ、俺にこうやって抱きしめられてるから脳がバグって頭痛起こしてるだけだろ?な?」
突如言い放たれたスーパーナルシスト全開の大河の言葉に思わずクスッと笑ってしまう。
「な…なにそれ」
「俺がこうやってサクラを抱きしめてるから、サクラが照れてるんだよ。だから頭痛いんだよ。」
「何で私が照れんのよ……」
「だって俺、めちゃくちゃイケメンだもん。」
「背も高いし野球してたから肩幅も有る。」
「しかも金持ちだし、探偵だし」
「そんな男に抱きしめられたら、そりゃあ女なら誰でも頭痛くなるって、そうだろ?」
───もうダメだ、どんな顔でこんなふざけた言葉を言ってるのかこの目で見たい。
そう思って大河の顔を見上げた瞬間、さっきまでの痛さが嘘かの様に引いていった。
「……ッ、あれっ?……治った…!」
「だから言ったじゃねーかよ。ただ単に俺みたいなイケメンに抱きしめられ慣れてないだけだって。」
イタズラなんだけど──
でも優しさが溢れてる笑顔でそんな事を言われたら、さすがの私でも何も言い返せない。
ふふっと鼻で笑ってから、大河ママに渡されたお水を飲んで気持ちを落ち着けた。
私達の会話を聞いて、微笑ましそうに目を合わせている両父親の気持ちなんてさて知らずに。