神埼探偵事務所
「警察官にならなかった理由と、本気の恋愛をしてこなかった理由は似てるかもしれない。」
シーンとしたリビングに響く、少しだけしゃがれてる大河の声。とても落ち着いたトーンなのは確かだ。
「……どういう事?」
「お前の知ってる通り、俺はイケメンだし金持ちだしスタイル良いし、めちゃくちゃモテるわけ。」
「でも、これもお前の知ってる通り……来る者拒まず去る者追わずで誰かを追いかけたりとか、そんなんはした事が無かった。」
「それって結局、俺が臆病だからなんだよ。」
「臆病?大河が?」
「俺は──本当に大切な人を守れなかった。」
「そんな奴が警察官にたった所で、誰かの彼氏としてソイツに忠誠尽くした所で、俺は所詮誰の事も守れない、だろ?」
「でも探偵は違う。俺の推理力は誰かを守る……というよりも誰かを助ける、わけだ。」
「警察やクライアント、そういった人達を解決に導く手立てをするだけで守るという事は業務には含まれない。」
「だから…俺は誰の「それは違うよ!」
急に大きくなった私の声に驚いたのだろう、先程までテレビに向けていたキレイな顔が私を見上げる形になっている。
「大河は私の事をずっと守ってる。」
「大河が居るから、私が居る。」
「大河に沢山助けられたし、大河の存在が私にとっては……生きる糧になってる部分いっぱいある。」
「大河は、誰かを救ってるよ。少なくとも側に居る私の事を沢山守ってくれてる。」
私を見上げる彼の優しい眼に引き寄せられる様にして、少しだけ冷えた手で彼の頬に手を置く。
「だから、そんな事言わないで。」
「だったら…」
「ん?」
聞こえないよ、と少しだけ背中を丸めたその瞬間、大河の腕が私の首の後ろに回り、グッと力強く引き寄せられる。
そして───半ば強引に触れる私と大河の唇。
「だったら、俺はこれからもお前だけを守ってく。」