神埼探偵事務所
午前11時過ぎ、チェックアウトの為に私がロビーで大河の帰りを待っていた時だった。
財布をポケットに直しながら私の方目掛けて歩いてくる大河と私、両方の耳にテレビから大好きな人の名が聞こえて二人して大きな液晶に目を向ける。
『いやあ、例の上野誘拐事件。どうやら連続誘拐事件と云う線が濃いらしく、神埼大河君が捜査協力しているみたいだけど一向に進展がありませんよね。』
この時間では何だかんだ高視聴率を残している、辛口司会者が名物のワイドショーだった。
私、この人嫌いなんだよね。
……だから基本的に休みの日でも、ほんわかしている関西ローカルしか見ないんだけど、まさか大河と居る時にこの番組を見る事になるとは思っても無かった。
この司会者の人、結構偏屈だから未だに大河の事を悪く言ってるのはネットニュースで見た事有るし。
『天下の神埼クンも此処で探偵人生終わりですかねえ。そりゃ、解決してほしいですけど2週間、何の進展も無いっていう捜査関係者の話しが本当なら、僕たちの税金がこのコに捜査協力費用として支払われているって話しですし。』
『そうですよね、それは僕も思います。というか……正直な話し、前から僕、このコ嫌いだったんですよ。』
『確かに顔も格好良いしスタイルも良いけど、自分の推理力や洞察力にかこつけて、すっげえ偉そうでしょ?』
『そりゃ、ゾディアック事件やジョンべネ事件を解決したのは素晴らしいけど……目の前で起きてる日本人の児童が誘拐されてる、こんな残虐な事件の犯人を捕まえれなくて、何が探偵だって言ってやりたい位ですよね。』
「……ッ、コイツッ…!」
ぎゅっと血が出るほどに自分の唇を噛み締めた時だった、苦笑いしている大河に周りの目なんて気にしていない様に抱きしめられ、腕を引っ張り駐車場の方まで無理矢理、連れて行かれる。
「ちょっと、大河!皆見てるよ!っていうかマスクとサングラスどうしたのよ!」
「要らない。し、別にあんなの見なくて良いから。」
「───でも、あいつ達!大河がどれだけ悩んだり考えたりしてるのか知らないくせにッ!」