神埼探偵事務所
私は1人でプリプリしているけれど、目の前の彼はどうやら慣れっこの様だった。
何食わぬ顔でスカイラインの運転席のドアを開けて、そそくさとシートベルトを付けている。
その普通さに少しだけ拍子抜けしながらも、置いていかれない様に私も助手席へ乗り込んだ。
「ねえ、大河!聞いてんの!!」
「ああ、聞いてる。」
「じゃあッ…!」
「俺がアイツらに言い返して何になる?」
「そりゃあな、腹立つ時も有るよ。俺は頭脳一本で勝負してきたのに、やれ出来レースだ親父の力だ言われて、殴りかかってやろうか。って思う時も有るわ。」
「それなのに都合の悪い時は、俺の力に頼って『神埼クンなら出来るから、我々を救って下さい』って言われると、コイツ達…って思う時も有る。」
「でも、それが人気の証って事じゃんってポジティブに考えないと仕方ねえだろ。」
「誰がどう見ても俺は間違いなく、世界で一番の探偵だ。顔も格好良いし家柄も文句無い。スタイルも良いし、金も有る。」
「人間ってのはな、同性でそういう完璧な奴を見たらどっかで揚げ足取りたくなるもんなんだよ。」
「………ッ。」
「一々アイツ達を相手にして、言い返したりする時間があるなら目の前の捜査に没頭する。」
「それがお前の愛した神埼大河、だ。よく覚えとけ。」