神埼探偵事務所
一通り話し終わった久本さんが『さすがだよ…さすが天下の神埼大河だね。俺達には想像も出来ない推理だったよ…』と犯人の目星は付いていないにも関わらず、どこか安堵した表情を浮かべながら大河の事を褒めちぎっていた時。
ノックも鳴らさずにドアが開く……。
───私達の目線の先には、いつも家の中で見る雰囲気とは打って変わってザ・エリート官僚と云う無言の威圧感を兼ね備えた魅力を持つ大河パパが居た。
「ごめんごめん、遅れちゃったよ。」
「親父、もう一通り話し終わった所だわ。」
「そうみたいだな、そのホワイトボードと久本の表情を見る限り。」
少し進展が有った、と場の雰囲気で分かったのだろう。
記者会見等で見る重い雰囲気の官僚フェイスよりは、少しだけ優しい目尻になっている。
「で、犯人は?」
「そこまではまだ……。ただ、神埼さん。神埼さんは本当に素晴らしいご子息をお持ちになったと思います。」
先程まで圧倒され続けているだけだった官僚の1人が嘘偽り無さそうに、そんな事を言うもんだから大河まで鼻の下を伸ばしかけている。
シャキッとしなさいよ、と云う意味で皆に見えないように背中を叩いてみたけれど、当の本人はやっぱり子どもだ。褒められる事がこの世で一番大好きなのだろう。
「犯人の目星はなし、か。」
「正直悔しい話しだが…でも二週間で此処に居る者全員の表情から少し棘が抜けた事を考えると、確実に重要な何かには近付いてるみたいだな。」
と言いながら背広を久本さんに渡して、秘書に合図をしてから椅子に腰掛ける神埼準夜。
さすが元公安委員会の委員長……つまり、警察庁のトップを務めただけあって所作全てに余裕が有った。