神埼探偵事務所
「警備員が対応したみたいだけど、どうやらカッターナイフを持って奇声を発してたらしい。」
「アメリカ映画でもないのに。」
小さく突っ込んだつもりだったけど、大河パパには聞こえてたのか、私の顔を見るなり全力の笑顔で同意してくれた。
「そうなんだよ。各省庁の中で暴れるって有りそうで無かったからな。その対応で色々と大変だったワケだ。」
「なるほどな、今は違うとは云え今の警察庁トップより親父の方が権力も人望も有るしな。」
「権力に関しては分からないけど、人望は有るだろうな。」
完全に神埼邸での会話のようになっている。
その証拠にエリート2人組と久本さんは黙って2人の会話を聞いて頷くのみだった。
「で、その男は結局何で暴れたワケ?」
「いや…そこが俺にも分からないんだ。でも調べたところ、大阪に住民票が有る男だったよ。」
「大阪ァ?それなら余計に可笑しい話しじゃねえか。何でわざわざこんな所まで…」
「でも、出身地は東京だったぞ。その証拠に、奇声男の父親が政治関係とコネが有るらしく、何のお咎め無しで、ものの20分程で迎えに来て2人で帰って行ったからな。」
「へえ…。公安案件では無いんだろ?」
「ああ、それは違う。それなら速攻ネットに情報が上がってくるはずだ。ただ単に精神疾患か何か持ってる息子が暴れたって話しだと思うけどな。」
警視庁のインスタントコーヒーは何故にこんなに不味いのか。
ネスカフェの最新マシンを買って欲しいけど……あくまでも彼達の処理するお金は給料にしろ何にしろ国民の税金から発生しているものだ。
高いマシンでも置けば、それこそバレた時に面倒臭いから、こんな安っぽいので我慢してるのかもしれないけれど──でも、大河のオフィスで飲み慣れている美味しいコーヒーと比べるとどうしてもモミが無い。
「その親父の事、知らなかったの?」
「名前までは聞いてないよ。だけど、俺の所に話しが回って来ずに開放された所を見ると、俺より下の人間……もしくはもっと違う界隈にツテがあるのかもな。」
「違う界隈って、それこそ財務とか総務とか?」
「そうそう。同じ省庁を持つ者でも畑が違うと、案外つながらないモノだからな。」
「へえ……」
「でも、警察庁で暴れた息子を直ぐに開放出来て連れて帰れるんだから、相当な人と繋がってそうだよね。」
「ああ、サクラの言う通り。ちらっと映像を見せてもろったけどエントランスの前に最新型のセンチュリーが停めてあったから、多分良い家柄の人なんじゃないかな。」