神埼探偵事務所
焦った久本さんが記載されてあるナンバーから、平沢健一が過去乗り換えたと思われる全てのセンチュリーの型番をインターネットで即時に調べて、私達全員が見える様にそれをプリントアウトする。
その間、ただでさえ居心地の悪い11階会議室は…もっと静かでソワソワさせてくる冷気が立ち込めていた。
紙に絵の具を擦り付ける様な機械音を、ここまで心地よいと思った事は一切無かったのに。
私だけでなく大河や大河パパ、ここに居る5人全員が思わぬ形で事実に近付けたかもしれない❝今❞を受け入れられないからこそ、機械音で有っても何であっても、沈黙を破ってくれる物に感謝さえ覚えるのだろう。
「はい、これサクラさんの分ね。」
と渡された2枚の紙。
そこにはテレビで見る、政治家や大企業の重役さん達が乗る様なセンチュリーの写真が6台分、印刷されてあった。
車には詳しくないけれど、確かにライトやフロントガラスの形が最近になればなるほど、ファッショナブルになっている気もする。
平沢健一が一番最初に乗ったと思われるセンチュリーを好奇心でジッと見つめた時だった。
───切り絵とは何の関係も無いはずなのに。
覚えのある、あの耐え難い鈍痛が又も私を襲う。
「───……ぁあッ…!」
「……?……って、サクラ?!大丈夫か?!」
側頭部を両手で押さえつけてみるも、心配する大河の声がかなり遠くに聞こえる。──これだけの痛みは、初めてかもしれない…。
「ああっ…頭が…」
「オヤジ!水持ってきてくれ!!」
「あ、ああ!」
ガンガンとハンマーで脳みそを叩かれたと思ったら、次はカッターナイフの様な鋭利な刃物で神経の集まる場所をチクチクと少しずつ切られ、そして抉られている様なこの痛み。
今まではグッと唇を噛み締め、息を止めれば何とかなりそうな痛みで収まってたけど……。
今日ばかりは何をしても、収まりそうにない。
「ああああ!大河ッ…!痛い、痛いよ…!」
「サクラ、大丈夫だから。」
「大丈夫だから、ゆっくり息吐いてみろ、な?」
すっぽりと収まった私の身体を、赤ちゃんに触れるかの様に優しく……でもどこか暖かく包みこんでくれる大河。
いつも香る、シャネルの5番の香りに何故か安心感を覚えながらも……
耐え難いこの痛みと決別するかの様に、私は気を失い、蜷局の真ん中へと落ちて行った。